まだ結婚したての頃。
町内の持ち回りで係をしてると、うちの組織内からどうしても会長を選出しなくてはいけない事に。
その任期は4年とめちゃくちゃ長く、やる仕事も多くなるし風当たりも強くなるしで、私も含め、誰もなりたいとは思いません。
嫁さんと二人、どうしても名案が浮かばず、現会長のところへ相談に行きますが、結局「誰かを選んで頼むしかないよね。」と話は平行線。
途方に暮れての帰り道、道端で近所のご夫婦が天体望遠鏡を覗いてました。
「こんばんは〜」「お〜、ちょうどよかった。覗いてごらん?」
言われるがまま望遠鏡を除くと・・・
そこには輪っかを巻いた星、土星が。
赤茶色とベージュと少しの青が、柔らかいグラデーションで織りなす縞模様。テレビや写真で見る通りの土星だけど、望遠鏡のずっと先にリアルタイムで、ちゃんとそこに浮いている。肉眼で初めて目の当たりにした土星は、自分が立っている地面が地球で
土星も地球も、広大な宇宙においてはほぼ“点”でしかない事を思い出させてくれた。
「うお〜!すごい!土星の輪っかって望遠鏡で見えるんだ!」
「この望遠鏡は倍率もそんなに高くない安モンだから、もっとイイ望遠鏡だったらもっと綺麗に見えるよ」
ああ、僕らはこの巨大な宇宙と、長い長い時間の中の一瞬に存在してるんだ。
嫁さんと二人、交互に何度か望遠鏡を覗いて感動を分かち合った。
左目を手で押さえ、覗いた右目から入ってきた映像は、それまで何週間も頭から離れなかった『会長選出』の大きな悩みをすっかり忘れさせた。
ご夫婦に感動と感謝を伝えたあとの帰り道に、また『会長選出』が僕らの思考の中に戻ってきたけど、これまでよりも随分と小さくなっていた。